台湾 海岸山脈|界橋溪右股 遡行

その日、人類は思い出した。
「登れない滝は巻けばいい」という考えが通用しない事を。
2025年元旦。海岸山脈の沢登りがこんなにも魔窟である事は、まだ知る由もなかった。
記録
独自の5大要素(体力・登攀・悪さ・藪漕ぎ・水量)を1〜6段階で数値化した沢の個性化パラメータです。従来のグレード(難易度)とは異なります。
・定義や意図は「源流徘徊」を参照。
・従来の一般的なグレードについては、たもしまが付けているものを採用しています。
★10段階で評価。個人の好みや思い出要素も含みます。
- 界橋溪右股:5級下
直登するのが難しく、巻くのも厳しい(地形及び棘薮)滝が多い。我々がこれまでに経験した日帰り沢の中では最難レベルの沢だった。
日本人による台湾沢登りは、中央山脈の渓谷で行われてきた記録が目立つ。一方で海岸山脈の記録は無く、地質も大きく異なるため前々から興味があり、今回の台湾遠征でぜひ調査したいと考えていた。
海岸山脈は、フィリピン海プレートが運んできた海底火山由来の付加体で構成されている。地質図を見ると、山脈の核心部は都蘭山層(火山角礫岩)となっており、頚城の海谷山塊とよく似た性質を持つことが分かる。
魯地圖とにらめっこし行先検討、気になる沢は何本かあるが、10m毎の等高線が重なり合うような混み方をした地形図に「大丈夫かこれ」となる。そんな中チャットでやりとりしていた台湾人沢ヤの周さんによると、界橋溪右股はキャニオニングで既訪らしい。そして「大きい滝が2個くらいだけ」とのこと。であれば、まずはこの沢でジャブを打ち、帰りは左股を下降してみようと考え車を走らせた。

界橋溪から水を引く配管から、水が噴出している。この取水堰まで道路があり、そこから入渓。

入渓早々、ゴルジュにCS滝が出てくる。増水しているわけでもないのに濁った水と、黒く歪な側壁で早速なんだかダークネスだ。この滝は容易に登れる。

容易なCS滝の直後、いきなり絶望的なCS滝が。やっぱり雰囲気が海谷に似てる。
何とか巻こうと試みるが…、

ゴルジュの側壁はズルズル、ボロボロで巻きのラインはかなり限られていた。

少し進んでは、これ以上進めない壁に阻まれ、その度に進路を変える。藪は棘がしつこく、鬱陶しい。

巻きの途中、少し高い木に登って様子を見るが、まだまだ大きく巻かなければならないことが分かる。たもしまが首元を痒そうにしていて何かと思ったら、大量の蟻が這いずり回っていた。側壁はますます立ち始め、軟弱な草と泥壁で前進が困難になりまさかの敗退がよぎる。
流石に諦めるには早いので、先に見える滝群が直登できる可能性に賭け、写真の木から懸垂で沢床に降りることにした。

ラッキーな事に、次の滝群は直登可能だった。フリクションは良く、たなリードで登攀。

真っ黒いボコボコのゴルジュを進む。

またしても絶望的な滝。これも苦労して巻く。なんだこの魔窟は。

巻き途中、対岸を見る。この状況伝わるだろうか?
あんな感じのズルズルの藪壁をトラバースしていく。棘の藪は厄介ではあるが、踏んづけるとフリクションが良いので助かる。

懸垂で沢床へ復帰し、この滝は何とか登れたがかなり悪かった。(tamoshimaリード)
この滝の先は、少しだけ渓相がまともになる。
直登できたりできなかったり、時々藪に絡まりながら進む。



相変わらず藪はこんなのばかりだ。現地で「黃藤」と呼ばれている、棘が非常に厄介な植物。痛いし、服がぼろくなるし、これが生えている場所で懸垂下降すると、ロープもぼろくなる。さらに、民芸品の竹籠のようなアイテムの材料になるほど頑丈だ。厄介すぎる。

だんだん源頭が近づいてくる。この時点で時刻は14時半過ぎ。
左股下降なんてとても間に合わなさそうだ。右股と左股の中間尾根にある鉄塔巡視路での下山を狙うことにした。

青い石が増えてきて、小動物の糞も出てきた。この辺まで来てやっと動物たちも歩ける範疇なのだろう。
ちなみに海岸山脈ではヒスイが見つかるらしい。

その後、藪交じりの壁を登り、這う這うの体で巡視路へ出た。

夕闇が迫る中、鉄塔巡視路を下るが、判然としない箇所や倒木・藪が覆いかぶさっている箇所も多く、時間がかかる。黄藤は本体だけでなく、葉っぱやツルの先端までもれなく返し付の棘があるため本当に何でも引っかかる。
最後はヘッデンを頼りに、謎の沼地の中を歩いて下山完了。
7km弱の行程をこなすのに9時間以上かかってしまった。
下山後は得も言われぬやり切った感に包まれていた。あれ、大きい滝2個って何の事だったのかな?
異国の謎沢で、ゲテモノが出てきて全力で何とかする。ええやないか。これぞ海外沢登りだ。
周さんにかなりの悪渓だった事を伝えると、「本当に登れるとは思ってなかった」的なメッセが返ってきた。おいw
まずは試しのつもりで選んだ沢が想像以上に魔窟だった。という事は、地形図でヤバそうに見えた沢は半端な覚悟では突っ込めないだろう。
「綺麗で楽しい沢」とは少し違うジャンルではあるが、こういうのが好きな人には絶対にぶっ刺さる渓相だと思う。
どなたか探検しに行ってみてはいかがだろうか。
装備・コースタイム
8:56 出発 – 15:52 詰め終わり – 18:13 帰着
(合計9:18/距離6.9km、登り740m、下り744m)
ラバーソール適、トーテムカム一式、50mロープ
遡行図

地名
界橋溪という沢名は、河口付近にある日本統治時代に架けられた「堺橋」に由来すると思われる。「堺」は国字であるため、代替として「界」の字が使われている模様。
台湾では「俣」の漢字を使わないため、「股」と表記する。(「俣」は国字)
また、遡行を「上遡」、下降を「下遡」と表記する。
他の記録
記録詳細は未確認だが、台湾人メンバーによってキャニオニングが行われたとのこと。
岩が脆いため、ボルト類は1つも残っていなかった。

















