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沢登りのプロテクション(中間支点等)にテリアが有能だった件

2026.09.17

はじめに

沢登りで滝を登攀する際のプロテクションは、結構奥が深い。ハーケンを受け付けない一枚岩はどうしようもないし、カムはサイズが合わなければただの重り。毎回都合の良い場所に灌木がある訳でもないし、ここぞという時のニラに限って弱々しくすぐ千切れたりする。そして、せっかく登り終えた先では終了点が絶妙に作りにくくて右往左往…
浅かったり脆かったり、絶妙なクラックに来るたびに「ここ、どうしよう」と手が止まった経験がある人は多いはずだ。

そんな場面で最近頼りにしているのが、DMMの「テリア」というギアである。本来はアイスクライミング用のプロテクションとして作られたものだが、沢登りのプロテクションとして使ってみたところ、想像以上に便利な存在だった。本稿では、テリアがどんなギアなのか、実際にどう役立ったか、ハーケンとの使い分け、設置方法や注意点まで、まとめて紹介する。

テリアとは何か

テリアは、ドラゴンカム等を手掛けるメーカーDMMが製造する、アイス/ロッククライミング用のプロテクションだ。DMMには「ブルドッグ」という同系統の製品があり、テリアはそのブルドッグを小型化し、より携行性をアップさせたモデルにあたる。

見た目はアイス用アイゼンの前爪のようなで形状で、氷や凍った草付きに打ち込んで使うのが本来の用途である。ただ、実際にはブレードを岩のクラックに打ち込んで使うこともでき、沢登りのプロテクションとしても通用する。初めてテリアの存在を知ったのは2024年の大雲沢の時で、ゴルジュクラブのタスクさんが使用していた。(当時の記事は下記参照)

便利そうだなと取り入れたら、今ではすっかり1軍ギアとなった。

テリアとテリア2

現在主に流通しているのはモデルチェンジ後の「テリア2」で、旧モデルの「テリア(初代)」とはスペックが異なる。両者を比較すると以下の通りである。ちなみに我々が使っているのはテリア初代のほうだ。

項目 テリア(初代) テリア2
画像 テリア(初代) テリア2
重量 73g 70g
強度(静荷重時) 15kN 10kN
アゴの外周 ギザギザあり ギザギザなし
参考価格 発売当時の英国価格で£18.00程度 8,000〜9,000円台(時期や店舗により変動)

強度は15kNから10kNへと下がっているが、10kNは中間支点として使える数値と言えるだろう。一方、アゴのギザギザ消失については、草付きや泥壁での食いつきに影響するのではないかと考えており、仲間の間でも概ね同意見だ。沢登りでの使用においてはアイスクライミングよりシビアではないと思われるが、このギザギザの有無は認識しておいた方がいい。
価格は取扱店によって差があり、購入時は必ず現在の在庫状況やモデルを確認してほしい。

類似ギアとの比較

似たような形状のギアに、Black Diamondのペッカーがある。これも先端とアゴを効かせるタイプのプロテクションだが、耐荷重は3kNとされており、あくまで前進用エイド器具という位置づけだ。

ペッカー使用例(南ア 赤薙沢ミツクチ沢にて)

沢の現場での活用例

実際に中間支点やエイド用としてテリアを使ってみて一番助かったのは、浅くフレアしたリスや片理が発達した割れやすい岩、風化した脆い岩などハーケンを受け付けない岩に効きやすい点だ。

中間支点として

四国 敬天の滝にて

割れやすい片岩の縦リスで、ブレード部分は少し岩を砕きながら刺さり、最後にアゴで支える形で決まった例。

中ア 中田切川にて

リスというより、ちょっとした窪みに近い、花崗岩系の沢によくあるアレである。テリアの細長く分厚い先端部がうまく引っ掛かりそのまま刺さった例だ。中間支点兼エイド用として設置した。

また、写真を撮り損ねてしまったのだが先端とアゴを隣同士平行して走る別々のリスに突っ込むことにより、テコの原理的な応力を生み抜群の安定感を出した例があった。これは回収に手間取るほどしっかり効いていた。

ハーケンは効けば非常に頼りになるプロテクションだが、岩質が脆い、クラックが浅い、打ち込む角度が悪いといった場面では、思うように効かないことがある。テリアは浅打ちでもアゴで効く事があるため、持ち合わせのプロテクションに選択肢が増えるという意味で、ハーケンの補完として持っておく価値がある。

前進(エイド)用として

石鎚 安居川 弘沢にて

大滝最上部で足元は完全にハングしている。絶対落ちたくない場所で全体重をかけて乗らなければならない。鐙をかける支点はフレアしたクラックに決めたカムが1つ…。というちょっと気持ち悪い状況でテリアを足した安心感は凄かった。フック状の形をしてるので、CS滝の脇にある溝とはとても相性が良い。

石鎚 安居川 弘沢にて

鐙がぶら下がっているのがテリアだが、殆ど引っ掛けるだけ程度の決め方である。それでも下向き荷重に関しては全くブレない安定感を出す。回収は上から少し強く引けばポロっと外れる。この一定方向の荷重に強い性質は終了点の補強にも有効だろう。

南ア 赤薙沢ミツクチ沢にて

これも花崗岩の穴にエイド用として決めた例。ハーケンだと先端1㎝程度しか刺さらないだろう。

実際の登攀では、一つの支点に頼らず複数の支点を組み合わせてアンカー構築する場面もある。テリアは単体で機能するプロテクションとしても、ハーケンやカムでは心もとない箇所を埋める「もう一手」としても活躍してくれる。

設置方法と注意点

テリアの設置で最も重要なのは、ブレードの打ち込み深さに関わらず、アゴを岩面にしっかり接地させることだ。アゴが浮いた状態で設置すると、荷重がかかった際に不安定になるので注意したい。とにかく先端とアゴを2点接地させる事が原則となる。

荷重ベクトルは、ハーケンと同様に下方向へかかるように設置する。この基本さえ守れば、設置の考え方自体はハーケンとそれほど変わらない。加えて、中間支点として単体で使用する再は上下左右へのブレで外れないようしっかりテストしながら決める必要がある。
テリアは便利だが、ハーケンやカムを置き換えるものでもない。それぞれの得意・不得意を理解した上で使い分けるのが前提になる。

まとめ

テリアは、本来アイスクライミング用に作られたギアでありながら、沢登りのプロテクションとしても十分に実用的だった。特に、浅くフレアしたクラックやハーケンを打つと砕けていくような脆い岩でも信頼できたという点は、実際に使ってみて印象に残っている。ハーケンやカムを置き換えるものではなく、それらでは対応しきれない場面を埋める選択肢として、ギアラックに一つ加えておく価値のあるアイテムだと思う。

ただし、これはあくまで個人の経験に基づく感触であって、あらゆる岩質・状況で同じように効くとは限らない。テリア1本の設置に全てを委ねるのではなく、可能であれば他の支点と組み合わせる、フォールの可能性が高い箇所では特に慎重に設置を確認する、といった基本は今まで通り徹底していただきたい。
ギアの選び方や使い方は、最終的には自己責任である点に留意したうえで本記事を参考にしていただけると幸いだ。

余談だが、冒頭で記載した「ハーケンを受け付けない一枚岩はどうしようもない」という件について、例外がある。
キメ細かく凝結が甘い凝灰岩系の岩で、リスではない普通の”面”に、謎に薄刃ハーケンが刺さった事がある。しかも、かなり安心感のあるガッチリした決まり方だった。薄刃ハーケンの新しい可能性を感じると同時に、とりあえず諦めずにぶっ叩いてみるものだなと感じた出来事だった。

妙高 白田切川にて

1996年生。就職後に沢を始め実践歴8年、訪れた沢は約600本。SAWA MAFIA所属、源流徘徊主宰。山・渓・里を繋ぐ沢旅が好き。オリジナルラインの遡下降と山の背景ネタを大切に、沢起点で流域の風土をまるごと読み解く探究を目指している。

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