越後三山|黒又沢 荒山沢右滝上沢遡行〜台所滝沢下降

記録
独自の5大要素(体力・登攀・悪さ・藪漕ぎ・水量)を1〜6段階で数値化した沢の個性化パラメータです。従来のグレード(難易度)とは異なります。
・定義や意図は「源流徘徊」を参照。
・従来の一般的なグレードについては、たもしまが付けているものを採用しています。
★10段階で評価。個人の好みや思い出要素も含みます。
- 黒又沢荒山沢右滝上沢:5級下
黒又沢はゴーロが続くが、荒山沢に入ってからは滝とゴルジュの連続で、快適に登れる大滝もあり全く飽きさせない秀渓。雪渓が残りやすいので、ゴルジュ内部を通過するには寡雪年の秋に行く必要がある。下山が長いのを割り引いても登りに行く価値がある。ラバー適。 - 黒又沢台所滝沢:3級下
水量の少ない沢で、伏流区間が長く、景観は良くない。滝がそれなりにあり、巻きも悪いものがあるため、遡行しても下降してもそれなりに苦労する。五龍岳から黒又沢への下降路として利用価値があるが、御神楽沢の方が快適かもしれない。
令和のご時世、多くの沢が明かされてきた中で未だに「未登」を色濃く残すのが黒又沢流域だった。里から近い場所にありながら記録は極端に少なく、それでいて少し昔には鉱山開発で栄えていたため絶妙に人臭い。それがまた良い。
今回 tamoshimaさん、yamakurumiさんにお誘いいただき計画を立て、ネット上は記録皆無で文献上も雪渓に閉ざされた遡行図しかない、名前すらも曖昧なこの沢を調査しにいくことになった。
そして、これが我々夫婦の顔合わせ山行になるのであった。


左岸から湧水の滝。 下に試掘跡の穴を発見、帰りの寄り道リストに追加。

前方に見えるのも湧水の滝。この辺りに点在する滝は廃坑道より吹き出す地下水なので何もない側壁から不自然なほどの水量を落としている。

しばらくすると爆水の滝と鉄橋が見えてきた。これも全部坑道からの湧水だ。所有は東邦亜鉛㈱で、かつて亜鉛を中心に様々な鉱物を産出していたそうだ。過去の遺構や人と山の関わりの痕跡は個人的に大好物なのでテンション上がる。こんな険しい山奥によく整備したな。最盛期の様子を見てみたかった。

湧水エリアを過ぎると水が温くなった。この滝は水圧強く離陸が難しい。


この滝はたなリード。水線を探るもステップが高く断念、ニラと岩の境目らへんを直登。支点は水流沿いにカムが決まった。

小難しい地形をいくつか越えていく。

CSが挟まった淵を泳いでくぐり、進む。

両岸に岩盤が発達し、だんだん怪しげな雰囲気が増してくる。

2俣を越え、右滝上沢に入ってすぐの滝。

ゴルジュの中を割るように流れ落ちていて壮観。


次に出てくるスダレ状滝。なかなかの高度感。


問題の滝が現れる。巻けそうだったがtamoshimaさんが軽身フリーで登っていってしまった。後続はロープを垂らしてもらい荷揚げで直登。出だしがホールドスタンスともにパズルのように悪くて頭を使った。

降った雨は4本の滝となってオカメノゾキの山岨から注ぐ。天候も相まってより一層ダークな感じに。


トラバースも交えて進む。ちょっとした所が結構悪い。

左岸の岩の割れ目から湧水が滴る。味見するとなんとなく鉄風味。

この辺から岩が露骨に赤茶色のヌラヌラした渓相に変わる。雪渓に閉ざされていた問題のゴルジュが開幕を告げる。


気が付くと雨はさらに本降りに、側壁はぐっと高くなり威圧感を放つ。

見たことないタイプの景色に圧巻。ヤバすぎて何がなんだかよく分からない。絶望的なCS滝に見えたがtamoshimaさんがリードを買って出る。これは全然いける範疇とのこと…

キャメの青をバチ効きに決め、アブミA1一切無駄のない動きで突破。ずぶ濡れでとにかく寒い。

フォローのyamakurumiさん。途中写真を撮りながらするすると登っていく。

上から撮ってもらった写真。私は今回がアブミデビューだったので文明の利器に感動した。

圧巻すぎる光景に言葉が出ない。実際は騒いでた気がするが、こんな大きなゴルジュが今まで一切の記録が無いなんて。越後の底無しなポテンシャルを感じニヤニヤが止まらなかった。


ここは後ろを振り返ったら地形がヤバすぎて笑いがこみ上げてきた所



この滝は右リッジより巻けるがyamakurumiさんが直登ファイト一発。上部がツルツルで厳しそうだった。 (tamoshima補足:yamakurumiはお助け紐でゴボウ。登れる滝ではない)

スカッと晴れた空より、曇天と雨だからこそ岩の質感が生々しく見え、妖艶な雰囲気を放つ。

振り返ると先ほど通過してきたゴルジュがよく見える。


Co.1120付近の顕著な二俣は左へ

tamoshimaさんリード。上部スタンスホールドともに細かくハーケンA0。最後は大岩の隙間にカムが決まった。A0無しだとフォローでも厳しいのでゴボウにする。ハーケンを外すのにかなり手間取ってしまった。この辺りは雨と水しぶきで結構寒くずっと奥歯がガチガチうるさい。9月ってこんな寒かったっけか。


ハーケンA0したCS滝を過ぎると地形が開け、待ちに待った幕営適地の予感。ゴルジュにガスが降りていく。

夜はささやかな焚き火で暖を取り、カレーを腹一杯頂く。yamakurumiさんがエクストリーム薪拾いを敢行するため側壁を登ろうとしていたが途中で止めていた。

Co.1150付近 整地したテン場は寝心地バッチリ。次回来る人も使えそう。

2日目は6時頃にデッパツ。テン場すぐ先に悪そうな滝がある。

左岸巻きで越えようとするが、思った以上に上へ追いやられてしまった。

tamoshimaさんのみ小さく巻けて水線復帰。私とyamakurumiさんは少し上の灌木から懸垂12mほど。結果として、この沢に唯一残置を残してしまった場所になった。某氏に「落ちてもゴロゴロ〜だから大丈夫だよ」と言われ、それアウトな音やん!と即座にツッコミを返した。

その後も渋めの小滝を何度も越えて、地形はずっとルンゼ状のまま稜線へ向かう。途中で腐った鎖が落ちていた。

オカメノゾキ、荒山を経由し下降点を目指す。アップダウンが急でしんどい。五龍岳を過ぎると中ノ岳方面にヤバ沢3兄弟がよく見える。左から右滝上沢、中ノ沢、檜倉沢。台嵓沢もよく見えた。 (yamakurumi : 檜倉沢は今年の寡雪でもしっかりと雪渓を蓄えていた。)

台所滝沢はかなり顕著な沢筋として登山道とぶつかっている(Co.1424付近) 五龍沢の支流か、黒又沢本流に降りられる台所滝沢なのか悩ましかったが、結果として大当たり。(yamakurumi補足 : 台所滝沢の源流域は地形図からは判然としない。台所滝沢を引き当てたという意味での「当たり」であって、下降用の沢としては外れ。)

台所滝沢は懸垂する滝は2回でいずれも残置不要で降りることができた。快適に歩ける場所が多い中、渋めのクライムダウンも何回か出てきたため完全に下降向きかと考えると何とも言い難い。

tamoshimaさんが「また需要の無い沢を開拓してしまったよw」とかつまらないものを切ってしまった五ェ門みたいな事言ってて面白かった。 まぁこの辺の下降路は御神楽沢がベターなんじゃないでしょうか笑

本流区間に戻り下山開始。初日に見た鉄橋が気になって気になって仕方なかったので、側壁を少し登り入り口を見に行く。コンクリで厳重に封鎖されており侵入は不可能だったが、複数ある通気孔からは冷たい空気が吹き出していた。坑道にはしっかり出口があるようだ。この先は檜倉沢の方へ繋がっているのだろうか。 また付近には試掘跡のトンネルもあった。 (yamakurumi : 人工物に興味が無い自分はお留守番してました。)

湧水の滝を上から観察。 個人的にはこの過去の遺構も含めてこその黒又沢だと思う。

湧水の吹き出し口は鉄板で補強された水路だった (tamoshima:ここは入れそうだが寒すぎて入る気にはなれない)

トロッコの軌道跡。 (tamoshima:レールが残っているのは意外)

試掘跡の坑道を調査。いずれも10m進まないくらいで行き止まり。
【ルート概要まとめ】
・十字峡〜黒又沢本流(檜倉沢出合)
おおむねゴーロ。随所に岩盤が発達し渓相◎
途中に廃坑道より吹き出す湧水の滝が3本かかり、そこより下流はキンキンに冷えた青い水、上流は少し温い笹濁りの水と水質が分断されてて面白い。
・檜倉沢出合〜荒山沢
一筋縄には行かない滝が何個もでてくる中、地形の妙を楽しみながら進む。檜倉沢の水温の低さから雪渓の存在が容易に想像できた。
・荒山沢右滝上沢〜源頭部
快適に登れる大滝が現れスケールの大きな非常に良さげな空間が広がる。その先が問題の区間で、赤茶色のヌラヌラした岩質に変わり、小雨の中両岸スラブの深いゴルジュ帯へ突入。突破は一癖あるが、どれも大巻きにならず進めるので素晴らしい。ちなみに荒山沢左滝上沢へ進むと、ゴロジュと開放的な大滝がでてくるらしい。
・登山道〜台所滝沢
登山道はアップダウンが厳しいが越後の沢の概念がよく分かる。この辺は1本沢に行く度に気になる沢が3本は増える。台所滝沢は顕著な沢型として登山道から派生する。下降向きとは言いがたいが一応問題なく降りられる。
・感想(たもしま)
もともと左滝上沢に行こうと思っていたが、2週間くらい前に杉並労山のHG33らによって開拓されてしまったので、残された右滝上沢に行くことになった。
どこから下山しても長いので大変そうだと思っていたが、初日のうちに結構上まで登れたので、余裕を持って詰め・縦走・沢下降が出来て良かった。
荒山沢に入ってからは滝とゴルジュの連続で、全く飽きさせない秀渓であり、大変満足できる開拓遡行であった。下山が長いのを割り引いても登りに行く価値がある。ただし遡行難度は高め(体感5級下)のため人は選ぶ。
こんなに遡行価値が高く、東京から前泊1泊2日で行ける近さの沢が残されていたのは雪渓のおかげ。地球温暖化万歳!(これは冗談、地球温暖化に地球環境上悪い側面が多いことは無論知っている)
・感想(たな)
たもしま、yamakurumiお二方はやんちゃな沢をやりがちなわんぱくコンビだと認識していたためもう何が出てきてもおかしくないと腹をくくっての同行 笑
結果、随所で助けられながらも圧倒的なゴルジュや大滝をはじめぶっ飛んだ景色をしっかりと目に焼き付けることができた。
越後の沢の概念をまた一つ把握できたことが嬉しい。雨で気温が上がらず過酷な部分もあったが、それ込みで最高にガツンと来る山行だった。
装備・コースタイム
1日目:5:59 十字峡登山口 – 6:20 日向沢出合 – 7:36 檜倉沢出合 – 9:41 右滝上沢・左滝上沢の二俣 – 15:20 宿泊地
2日目:6:00 宿泊地 – 8:14 登山道 – 9:16 オカメノゾキ – 9:46 荒山 – 10:52 五龍岳 11:16 – 11:51 神生池 – 12:05 台所滝沢源頭 – 15:19 黒又沢本流出合 – 17:36 十字峡登山口帰着
(合計20:57/距離24.5km、登り2,697m、下り2,706m)
・雨天で増水していたためシャワーを浴びる滝が多く、フラッドラッシュでは寒かった
・ラバーソール適
・キャメロット#3まで使用した。
遡行図

地名(tamoshima記)

下降した沢の名称については不明確であったため、黒又沢流域の全ての沢名を文献調査し、画像の通り整理した。
沢名一覧:柴倉沢、スダレ沢、日向沢、蛇ノ沢、五エ門倉沢、又五郎沢、橫マブ沢、御神楽沢、次郎沢、持場沢、台所滝沢、五龍沢、曲沢、荒山沢、左滝上沢、右滝上沢、中ノ沢、立ガ沢、檜倉沢、台嵓沢
なお、この流域は1970年ごろまで鉱山として開発されていたため、かなり小さい枝沢にも名称が付けられている。
下山メシ&周辺施設(たな記)
○南越鉱山(なんえつこうざん)
信濃川百年史(建設省北陸地方建設局, 1979)によると、豊臣政権時代から採掘の歴史があったとされているが一次資料は会津藩の地誌と考えられる。1955年に東邦亜鉛の所有となり、本格的な開発が始まるまでは組織的な採掘は行われていなかった。銅・鉛・亜鉛などの採掘がおこなわれ、1971年に休閉山となって今に至る。豪雪地かつ急峻な山岳地帯に広がる鉱床であったため、掘削・運搬の設備を極力地中に造る”もぐら戦術”で開発が進められた。広堀川から阿寺山を貫く坑道(第一通洞)でスタートし、冷たい大量の湧水に苦戦する大工事だったそうだ。記事上部の写真にある鉄橋は、第一通洞と第二通洞を結ぶためのものだった。
南越鉱山については源流徘徊で詳細を解説中。
○駐車スペース
十字峡登山センター起点 トイレあり
○五十沢温泉 元湯
古民家風のこぢんまりした造りで良い。お湯は熱めで鉄分の香り。ボディーソープあり、シャンプーなし、ドライヤーなし。女将さんが優しい。480円
○華福
メニューが充実していて良い。町の中華屋さん。肉丼と焼肉丼の違いは、肉の入ったあんかけか、焼いた肉か。
他の記録
・日本登山大系2 南会津・越後の山
(沢筋がほとんど全て雪渓で埋まった記録の掲載あり。良い意味で全く参考にならない)
・渓谷溯行資料7、年報わらじ2:上記登山大系の元となっている山行記録が掲載されている
〇本件ヤマレコはこちら























































