南ア|大井川 樽沢遡行・中ノ宿沢右俣下降

記録
独自の5大要素(体力・登攀・悪さ・藪漕ぎ・水量)を1〜6段階で数値化した沢の個性化パラメータです。従来のグレード(難易度)とは異なります。
・定義や意図は「源流徘徊」を参照。
・従来の一般的なグレードについては、たもしまが付けているものを採用しています。
★10段階で評価。個人の好みや思い出要素も含みます。
- 樽沢:4級下
1550m付近にある40m程度の滝から始まるゴルジュが核心で、特にこの滝の高巻きが悪い。発達したゴルジュ内での滝の登攀が楽しめ、ゴルジュ外にも適度に登れる滝があって悪くない沢だが、車と徒歩でのアクセスが悪いのが欠点。 - 中ノ宿沢:3級上
1360〜1550mにかけてのゴルジュには大きい滝が次々とかかり素晴らしいが、直登できそうなものは少ない。それ以外はほとんどゴーロ歩きに終始するので、遡行対象としてはいまいちである。樽沢遡行時の下降ルートとしては悪くない。
樽沢は、地理院地図に名称も記載されていない沢だが、DEMデータから、顕著なゴルジュがあるのは明らかで、調査対象として当初より考えていた。多少涼しくなった時期でも大丈夫だろうと考えていた結果、結局これが最後になった。
下降ルートとしては、丁度いい位置にあるし、立派な連瀑帯がありそうな、中ノ宿沢右俣を選択。

リニア中央新幹線工事の事前環境調査として、東俣林道通行許可を頂き、樽沢出合の対岸の空地に駐車。
樽沢は出合が伏流しているが、すぐに水が出てくる。

序盤の14m滝は登れそうにないので巻く。


ゴルジュの中の12m滝:シャワーを嫌って右側壁から登ったら、結構難しかった。

立派なゴルジュに4mCS、7m、20m滝と続く。このゴルジュは容易に巻けるが、できるだけ突破した方が楽しめる。

ゴルジュ内の20m滝は登れないが、左岸から労せず巻ける。



7m2条滝を快適に直登すると、一旦ゴーロとなる。

核心のゴルジュの最初の滝、40m。直登できないし、側壁も高い。右岸のルンゼに入るが…

かなりボロい壁を右上し、本流方面へ。出だしがかなり悪く、この沢の難易度的核心だと思う。フォローだとほぼ歩きピッチになったので、メンタルと浮き石排除で登るタイプ。しかし、ここ以外に巻きルートはなく、大高巻きすればゴルジュ全てを巻いてしまうだろう。

懸垂下降で本流に戻ると、2段20mの滝。フリーソロで左壁を登ったが、ぬめっていて悪かった。ロープ使用推奨。

ゴルジュは続き、何やら奥にやばそうなCS滝が見えるが…

意外にも、シャワーで快適に直登できる滝だった

10m滝は、左凹角をロープを出して登攀。

ゴルジュ最後の18m滝は、左から簡単に巻いて、ゴルジュ終了。

変則二俣の手前に、側壁だけ立派なゴロジュがあった。

変則二俣は右が本流だが、この上流は平凡そうなので、左へ入り、詰めあがる。

詰めあがって沢下降を始めると、妙にシダが多い斜面だった。

長いゴーロを経てようやく滝が出てくる。左岸から巻いた2段7m滝。

モンキークライムダウンで左岸を無理やり下った8m滝。ここからいよいよ本格的なゴルジュになる。




5m滝をクライムダウンし、最大の37m滝もロープ連結で懸垂下降。



最後に9m斜瀑を懸垂下降したが、ロープスタックして登り返す羽目になった。容易な滝で良かった。

以降は長いゴーロが続くので主に渓畔林を歩いて下り、最後は、比較的珍しい鋼製堰堤を2基巻いて、登山道へ。

中ノ宿吊橋を渡って東俣林道へ戻る。
【感想・総評】
樽沢は、核心のゴルジュの高巻きが想像以上に悪く、登り応えがあった。全体的に結構登り応えがあるし、ゴルジュの見応えもあって、アクセスが良ければお薦めできる沢なのに。沼平まで運転し、さらに歩くとなると、そうそう訪れる人はいないであろう。とはいえ、沼平から歩けない距離でもないので、今後も遡行する人がいるかもしれない。
中ノ宿沢のゴルジュの連瀑も、想像以上に立派だった。遡行で来ると、面倒な高巻きの連続になるのではないだろうか。きっと、これまでもこれからも、遡行されることはないだろうけど。
こんな機会でもないと調査する気になれないような沢だが、そんな機会を頂けて本当にありがたい。貴重な記録を残せて良かった。
装備・コースタイム
6:06 出発 – 12:18 尾根越え – 16:42 中ノ宿吊橋 – 16:49 帰着
(合計10:43/距離6.9km、登り1,397m、下り1,397m)
・ラバーソールだったが、ぬめり強め。しかし悪い高巻きを考慮するとラバーソールの方が良さそう。
・ロープは50m2本使用
遡行図

大井川調査の総括
・たもしま
今回、7月から9月の延べ19日を費やし、34本の沢を調査することができた。通常は自家用車で入れない東俣林道に入れるということで、興味深い沢の殆どを調査対象とした欲張った計画だったが、天候に恵まれ、無事完遂することができたのは、望外の喜びである。
リニア中央新幹線のトンネル工事による減水の可能性が高いのは椹島より北側とされているが、沢登りとして特に面白い沢は椹島より南に集中していた。椹島より北の沢は、沢登りの対象としては南側に及ばないものの、車屋沢の立派な滝、蛇沢や上四郎作沢の登れる連瀑、オシヤリ沢のゴルジュや湧水等、特筆すべき地形があった。工事によりどのような影響を受けるのだろうか、人知では量り得ないことであろう。雁坂トンネル開鑿により減水したといわれる、奥秩父の滝川水晶谷のようになってしまったら、大変残念なことである。
これまでもいろいろな地域で、隣接する沢を何本も登り降りしているが、それは何年もかけて少しずつ進めている。今回は時限的な通行許可だったので、短期間で集中して取り組むことになったが、それは大井川流域を一層深く理解することに繋がり、愛着が強まった。
結果、僅か3ヶ月で、大井川流域の豊かな、そして多様な沢を体感し、記録に残すことができた。赤石沢や聖沢の赤い岩、倉沢や所ノ沢の楽しいゴルジュ、大雪渓沢や下奥雪渓沢の雪に磨かれた豪雪地帯特有の植生や地形、大水量で圧倒的な赤石沢大ゴルジュ、前聖の滝沢やクズレ沢の3000m峰に詰めあがる開放的な詰め、美味しいイワナ、枯木戸滝の大滝登攀等々、この流域の素晴らしさを挙げれば、枚挙に暇がない。このような貴重な機会を頂いたことに、改めて感謝したい。その素晴らしかった沢たちをこうして紹介することが、恩返しになっていれば幸いである。
・たな
林道通行許可を頂き7月から始めた大井川調査は、これでひと区切りとなった。豊かな森、特徴的な地形や生き物、特に固有亜種のヤマトイワナの存在など、大井川流域らしい貴重な自然を改めて実感できた。あとは、「南アを後世に残す」という主催のミッションに応えうる意味のある活動データとして整理していくだけである。
現地を歩くと、豊富な湧水のため集水域と水量がまるで比例しない沢が多いのが印象的だった。幾重にも重なる山稜と谷筋が、絶え間なく隆起と浸食を繰り返す。こんな場所にトンネルを通すとどうなるのか?ずっと議論されている問題がよりリアルに浮かび上がった。地下水脈の繋がりを考えると、掘削地点から離れた場所でも水が涸れる可能性は十分にある。考え始めればきりがないが、リニア工事の行く末は注意深く見つめていきたい。
国や県、地元住民、企業体、そして外から訪れる私たち沢ヤや釣り師。それぞれの立場や利害、想いが複雑に絡み合う構図は、かつて観た映画「ミルクの中のイワナ」や、奥只見・銀山平開発を巡るルポルタージュ「イワナ住む山里」とも重なるものがあった。自然を守る取り組み、自然を利用する開発、無視できない巨大資本や利権が影響し合う中で、大井川は昔から人々の暮らしのすぐ側にあった。今回歩いたエリアは過去の開発により既に原生自然ではなくなっている部分もあるが、”命の水”の源である事に変わりはない。大井川源流域で今、何が起きようとしているのかは、もっと開かれた形で語られるべきだろう。
今回の集中調査で目の当たりにした分厚く、豊かで、美しい自然が、この先ずっと未来まで続いていくよう願ってやまない。今回の有志による一連の活動記録が、その一助となれば嬉しい限りだ。
地名
○樽沢
・この地名は中部山岳の渓流(鈴野,1983)に記載。
・南アルプスと其渓谷(平賀,1931)では「タルサワ」と記載。
○中ノ宿沢
・読みは、現地案内板によると「なかのしゅくざわ」。
・枝沢に名称は確認できないため、1242二俣の右を「右俣」、左を「左俣」とした。
他の記録
・樽沢、中ノ宿沢ともに記録未見。
〇本件ヤマレコはこちら
1994年生。ぶなの会所属。大学に入ったタイミングで沢登りを始め、沢登り歴13年、訪れた沢は約1000本。沢を登るだけでなく下りも交え、一層その流域への理解を深めたいと考えている。最近は、情報の乏しい隠れた秀渓を探すのにハマっている。






























